五行説 U

五行説 U


 古代人は、宇宙の働きと同じように人体の動きも同じ理屈で考えて小宇宙と捉え、各内蔵の働きを説明しています。現在我々が知る理論の中でも特に要領よくまとめられ、期待できるのが、いままで残ってきた古典の価値であるとも思われます。

 現在私たちが知っている各内臓名は、江戸時代にオランダから入ってきた解剖学で説明されていた各内蔵の名称を日本語訳にするために、以前からあった漢方医学の名称を当てはめたものなのです。ですから、東洋医学で言う肝の働く機能と西洋医学で言う肝の働く機能は違い、混乱する原因となっているのです。東洋医学はあくまでも気の流れ、陰陽のバランスから肝の持っている生きる力、肝の気を大切にしています。しかし、西洋医学では化学工場のように処理する働きが多いとか様々な説明がされていると思います。この辺りの区別をよく理解していただき、これから先をお読み下さい。

 春は前にも言いましたように、新芽の活動時期です。人体も春になると活動するのです。その働きの源は、肝の元気が大きく働いていると古典で説明されています。精神的にも肉体的にも伸び伸びと成長するのです。もし春になって肝が働いてくれないと一般でよく聞く話ですが、精神不安症候群や頭痛、肩こり、目の疲れ、のぼせ、筋肉痛などをよく訴えます。皆様のなかでも多少なり経験のある方がおられるのではないでしょうか。

 次に「火」と呼ばれるのは、心臓の働きを意味しています。自然界の山奥の木々が自然発火していく姿でもあります。非常に激しく元気です。心臓がそれほどの働きを持っていると理解していただきたいです。この心臓は夏の時期によく働いてくれます。適当に運動をして、発汗すると良いのです。夏に心が働かないと胸に熱がこもり、胸、脇に症状が出ます。夏になってもあまり汗をかかない人や冷え症の人、低血圧の人は夏の季節に体調を崩しやすいので、心臓病の病を持病としている人は特に気をつけなければなりません。心臓は、内臓の中で一番熱性ですので「火」と総称されたのです。

 次に「土」です。前に出ました「木」「火」のあとに来ていますのは、「木」が燃えた(火)後に灰となり、土に戻るという意味からです。また、大地は土であり、万物を育てる大事な役目であります。この「土」を東洋医学では季節の変わり目の土用に当てはめ、年に4回あります。人体の内臓に当てはめると「脾」になるのですが、現代の読者には脾の作用が少し難解であると思いますので、働きと作用は「胃の性質」と考えて下さい。ですから今後、脾の言葉を使用する場面でも胃の表現で説明します。(東洋医学に詳しい方もその旨ご了承下さい。)胃の働きを手助けしているのが、脾なのですが、西洋医学で言う脾臓ではないのです。この辺が内臓に名称を付けた時の慎重さが欠けていたとも考えられます。胃は食べたものを消化して、栄養になるエネルギーを製造します。難しくいいますと血液のようにはっきりとわかるものと、蒸気のような形のないエネルギーになり、これを「気」と呼んでいます。天気、元気、電気、気持ちのように「気」の字には、見えないエネルギーが存在しているという意味があるのです。この「気」は、肺に入って全身にいつも出ている陽気の源となっています。そして体温保持をしているのです。土用は、年に4回巡ることで、各季節を乗り切る助けをしてくれているのです。


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