■ 第2回 日精診 デイケア研修会(宮崎) 第1分科会の報告
南彦根クリニック 上ノ山一寛
第1分科会は吉本先生の講演とビデオを中心とした刺激的な集まりでした。吉本哲郎先生(福岡・熊手町クリニック)には「演劇と精神科医療」と題する講演と、先生の主宰されている劇団「MAKE
A MOVE」のビデオ上映をしていただきました。
私達は、患者さんたちに対して様々な治療的働きかけを行っています。デイケアもその一つです。デイケアをすすめていくにあたって何か役立つアイデアを期待して第1分科会に参加された方々は、期待外れになったかも知れません。なぜなら吉本氏は、本来様々な可能性を秘めた患者さんたちとの出合いを、治療という名のもとに囲い込むことへの疑問を投げかけているからです。
劇団「MAKE A MOVE」はデイケアではありません。患者、治療者、市民が演劇を媒介として出会う市民運動です。
非日常性を生きることを余儀なくされている患者さんたちの生活と、演劇という非日常性の空間が重なりあう部分があるようです。演劇空間では非日常性が常態であり、非日常性を身にまとった振る舞いが、当たり前の事として受け入れられます。演劇空間のなかで患者さんたちの現在をそのまま表現することができれば、それだけで大きな感動を生み出すでしょう。それはそのままでの自己肯定、他者との新しい関係の創造につながると考えられます。
このようにして、市民社会に撃って出ていく劇壇MAMの活動は圧倒的な迫力がありました。吉本先生の類い稀なるエネルギーとリーダーシップを感じます。ですから他の人が真似をしようとしても、とても難しいのではないでしょうか。
吉本先生は自身の演劇活動が治療的枠組みに取り込まれることを拒否しておられました。しかし劇団MAMの活動を一つの極として、「演劇と精神科医療」というテーマには、私達の臨床につながっていく数々の問題点が内包されていると思います。
たとえば治療において演劇的要素を意識することはとても重要なことではないでしょうか。演じること、表現すること、楽しむこと、人との関わりの中で何かを創りあげていくことなど、様々なことが演劇と関連して私達の日常を構成しています。
振り返ってみれば私達の治療空間は現実と非現実の間にある、演劇類似空間です。そして治療行為は患者と治療者が共同で織りなすパフォーマンスです。
多くの患者さんたちは他者の視線に過敏で、自らの表現行為は萎縮しがちです。多くの治療者は他者の視線に鈍感で、自らの表現行為に無自覚です。そのような現在の治療空間にあって、演劇的要素を意識するとはどういうことでしょうか?
とりあえず、患者さんたちは自分達の表現行為の創造性に意識的になっていくこと。その一方で治療者はその創造性を発見していく目を養うこと。自分達のパフォーマンスに対してもっと修練を積んでいくこと。などなど、吉本先生の挑発を受けてあれこれ考えさせられました。
(第2回日精診デイケア研修会報告集より)
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