「こ」というお題を頂いて、すぐに思い浮かんだのが「こころ」という言葉。なにしろ私は「こころ医者」を生業としている。しかし「精神科」というのが許された標榜名。でも「こころ」と「精神」はどうもピタッと一致しない。「こころ」は古くからの日本語。「精神」はプシュケなどの古代ギリシャ語を当てはめた言葉。ヘーゲルさんの難しい本に「時代精神」などの言葉があるように、「精神」は私たちの体を超越したところに想定されがちだ。
先日、横山ホットブラザーズの皆様と「笑いと健康講座」という集まりでご一緒した時、「五臓六腑っていうけど、こころは何処にあるの?」と聞かれた。「心臓は五臓の一つだと思うけど・・心臓はハートだからこころとも言えるけど・・でも心臓は診ません。」「六腑って何処や知りませんけど『腑に落ちる』という言い方があるから・・こころはそのあたりにあるのと違いますか・・・」としどろもどろに答えた。家に帰ってから大あわてで広辞苑を調べたら「五臓六腑」は体全体という意味以外に、腹の中、心の中という意味もあるらしい。要するに私たちの祖先は、体とこころを分離せずに考えていたようだ。「腹」や「肝(きも)」が「こころ」の意味で使われてきた。最近の研究では、こころと体の状態は自律神経系・免疫系・内分泌系などを介して、繋がっていることが分かっている。笑いと健康で、いまや有名となったNK細胞は免疫系に属する。
同じ集まりで、こいし師匠には「精神科のお医者さんというのは何処を切りますのや?」とつっこまれた。またも私はしどろもどろになりながら「死なんといてね、と言って指切りくらいします」と答えるのが精一杯だった。やはり家に帰ってから考えた。「精神科というのは何処も切りません。こころの病気になると孤立がちになるので、切るよりもこころを繋ぐ仕事をします」と答えたら格好良かったのに・・と。
(日本笑い学会新聞 第69号 2006.4.30発行 より引用)