滋賀県精神科診療所協会 上ノ山一寛
いよいよ市町とともにメンタルヘルスに取り組む時代に入ろうとしています。そのための仕組みとして「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築が求められています。精神障害の有無や程度にかかわらず、誰もが安心して自分らしく暮らすことができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援などがつながりあって支えあう体制のことです。その背景には、一人ひとりが生きがいや役割を持ち、助け合いながら暮らす「地域共生社会」への期待があります。
高齢者介護の領域では、地域包括ケアシステムは中学校区を中心とした日常生活圏域を想定して考想されてきました。一方、精神障害の領域では医療機関の偏在などの理由で、2次医療圏ごとに体制構築が図られてきました。そのため、保健所が精神保健医療福祉の第一線機関として位置づけられてきましたが、保健所機能の整理縮小の流れの中で、対人サービスも随分制限されてきました。今回のコロナ禍でも、少ない人員の中で保健所スタッフはフル稼働しましたが自ずから限界がありました。
市町の地域包括支援センターでのケア会議などで困難事例として上がってくるケースの多くに精神障害が関係しています。親世代の高齢化に伴い浮上してきた子供世代の精神障害の問題が、「8050問題」として大きく取り上げられました。その他にも自殺対策、虐待(児童、高齢者、障害者)、生活困窮者・生活保護、母子保健・子育て支援、高齢・介護、認知症対策、配偶者等からの暴力(DV)等の多くの分野において、精神障害がテーマとなっています。
精神保健福祉法では、市町における精神保健に関する相談業務は、努力義務に留まっているため、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」では、市町の責任を明確にする方向で議論がなされました。その報告書において、「危機等の状況に応じて市町村が、地域の精神科診療所等の精神科医等の協力を得て、自宅等への訪問支援を行う専門職等から構成されるチームを編成し、訪問支援の充実に取り組むべき」という提案もなされています。市町におけるコミュニティメンタルヘルスチームの立ち上げを期待したいと思います。
(精神保健福祉協会だより 第66号巻頭言(2021.12.31)より抜粋)