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新型コロナ禍のメンタルヘルス 〜自殺を防ぐ〜

滋賀県精神科診療所協会 上ノ山一寛

 2020年は新型コロナに振り回された一年でした。1月に我が国で初めて感染者が発見されて以降あっという間の一年でした。4月には緊急事態が宣言され、オリンピックを含めて様々な行事が延期ないし中止になりました。新しい生活様式が求められ、手洗い・消毒に加えて、マスクが欠かせず、エアコンをつけながら換気をし、ビニールシート越しに会話をし、不要不急と言われる外出を控えてきました。

 ソーシャルディスタンスなどという耳慣れない言葉が日常語になり、繰り返し自粛を呼びかけられる中で、緊張感の続く日々でした。先行きが見通せない中で自粛疲れという言葉もみられるようになりました。毎日発表される感染者数や死亡者数に一喜一憂する生活で、日常会話が今日のコロナ情報を確認から始まり、後手続きの政府の対策への不満をつい口にするのも普通になりました。

 感染への不安や生活様式の変化に加えて、社会経済状況の悪化が長期化する中で、メンタルヘルスへの影響も強くなっています。警察庁の報告では、過去10年間減少続けてきた自殺者数が昨年7月以降増加に転じています。自殺はさまざまな原因や背景が複合的に重なった結果と考えられますが、最後の引き金を引くのは、うつ病などの精神疾患であると言われています。その意味では、精神科医療は、ゴールキーパーの役割を担っていますが、自殺を防ぐには、過労、 生活困窮、育児や介護疲れ、いじめや孤立などの様々な社会的要因に切り込んでいく必要があります。

 1998年に自殺者が急増したときには、中高年の男性の自殺が問題になっていました。今回は、女性の増加が目立っています。いのち支える自殺対策推進センターの分析によれば、その中でも「同居人がいる女性」と「無職の女性」が自殺増加率を押し上げているとのことです。その背景には、非正規雇用のため就労継続が難しくなったり、DV被害や育児の悩み、 介護疲れや精神疾患など、コロナ禍における様々な問題が潜んでいると思われます。

 自殺を防ぐために、精神科医療の充実と同時に、孤立を防ぎ、さまざまな生活上の困難に注意深く目を配り、生きていくことを促進するような相談支援体制の充実が望まれます。

(滋賀県精神保健福祉協会たより 第65号巻頭言(2021.1.1)より抜粋)




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