滋賀県の精神科診療所の現在

                 医療法人 南彦根クリニック  上ノ山 一寛

 日本の精神科医療は長らく病院を中心に展開されてきましたが、コミュニティケアの必要性が論じられる中で、精神科診療所の数が近年急速に増加してきています。
 
 平成13年11月現在、日本精神病院協会の会員数は1214に対して、日本精神神経科診療所協会の会員数は1104(未組織の診療所を入れるとその3倍)となっています。滋賀県では、平成14年1月現在、精神科入院病床を有する病院12に対して、滋賀県精神神経科診療所協会会員は14です。
 
 精神科医療の守備範囲は狭義の精神疾患から、いわゆるこころの健康相談にいたるまで幅広い領域にわたっています。街なかで気軽に受診したり相談したりできる場所へのニーズが高まってきているように思います。
 
 滋賀県精神神経科診療所協会は、平成8年4月に結成され、年2回の講演会などを通して精神保健福祉に関する知識普及・啓発活動を行ってきました。各診療所は医師と数名のスタッフによる小規模で家族的な雰囲気で運営されています。概ね、アクセスの良い場所にあり、夜間診療、予約診察、デイケア、サロン活動、往診、訪問看護、思春期や老人の専門診療などそれぞれに創意工夫を凝らしています。基本は利用者のニーズにそったサービスの提供と、ノーマライゼーションの実現だと思います。

 <南彦根クリニック沿革>
 平成2年7月   設立(JR南彦根駅前テナントビル2F)。
 平成6年1月   精神科デイケア開始。
 平成6年4月  思春期予約外来開始。
 平成8年10月 すべて予約診察に移行。
 平成11年9月 医療法人設立。
 平成12年11月 現住所に新築移転・院外処方箋発行へ移行。
 <サタデーピア沿革>
 平成5年9月  土曜会(南彦根クリニック患者家族懇談会)開始。
 平成10年3月  土曜会喫茶「ひだまり」開始。
 平成11年12月 NPO法人サタデーピア認可。
 平成13年5月 精神科小規模作業所「夢工房if」開所。

 新築移転するにつけては、様々な懸念がありました。一つは、敢えて「精神科」という印つきの建物を建てることへの不安でした。これまで駅前雑居ビルの中にありましたので、利用される方の抵抗感は少なかったと思われます。しかし今後、地域での理解を得ていくためには素性のカミングアウトも必要と考えました。
 院外処方箋への移行にもためらいがありました。精神科の処方には、単に薬のやりとりを超えて、薬を介した医師ム患者間の様々なコミュニケーションが含まれています。そういう薬をめぐるパーソナルな部分を失ってしまうのは精神科医としてはつらい選択でした。しかし精神科薬の情報公開と自己管理への流れを優先することはノーマライゼーションの第一歩と考えました。
 
 最近の精神保健福祉施策の進展において、医学モデルの縮小と脱施設化、それと表裏の関係にある、生活モデルの拡大、地域での生活支援の充実が大きな流れとしてあるのは事実です。しかし精神科領域では症状の軽減や再発予防など医学的管理の必要な部分は他障害に比べてかなり多いと考えられます。医学的関わりと福祉的関わりの接点に位置する診療所の役割は今後ますます大きくなると考えています。
 
   
       第21回滋賀県病院大会(平成14年2月24日)原稿より引用




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