探索19日目戦いは、攻める戦いより、逃げる戦いの方がむずかしい。 それが、「全員で生きて帰る」となれば、なおさら――― 他のチームのことを、考えてる余裕なんてなかった。 ただがむしゃらに戦って、かぼちゃのお化けを倒し、白い虎を退けて…… なんとか安全な場所までたどりついた時、わたしたちは、3人と2匹だけになっていた。 シャークとパンサーのみんなは、無事かな………… 後で考えてみれば、たったの数十分だったのかもしれない。 でもその時は、その時間が何日間ものように思えた。 シャークとパンサーのみんなが……誰も、山から出てこない。 ただ、待った。みんなの強さを信じて。そして、助けに行く余裕さえなかった自分の弱さを悔やんで………… 不意に、エニシダさんが吹矢を構えた。 のそり、と大きな影が、木々の間から姿を現した。 立派な毛並のあちこちが汚れ、あちこちが傷ついた―――さっきの白い虎。 口元には、何か黒い塊みたいなものをくわえていた。 ……違う、あれは…… あの、白金色の髪は…………! 「待って!!」 言葉が勝手に出た。体が、ひとりでに動いた。 無意識のうちに、わたしは、エニシダさんの吹き矢から白い虎を守る位置に立っていた。 この虎さんには、もう敵意はない――― 根拠なんてなにもなかった。でも、わたしはそう直感していた。 「……傷はひどいが、命に別状は無い。早く手当てをしてやれ」 加えていた黒いマントの人物―――セレナさん―――を、わたしの足元に丁寧に下ろして、白い虎が口を開いた。 牙持つ獣の口から流れ出る、低く澄み通った声の、人間の言葉。 セレナさんは全身に、ひどい切り傷と凍傷を作っていた。 普通の人なら死んでしまうような傷でも、セレナさんの場合は死にまでは至らない。でも、早く手当てをするに越したことはない。 エニシダさんとアルクリーフさんが、素早くセレナさんの手当てを始めた。 「……ありがとう。でも、なんで……」 思わず、疑問がわたしの口から飛び出した。 敗れれば、死――― それが、獣の、野生の掟のはず。 でもこの虎さんは、セレナさんを助けた。 けれど、問いの答えは、誇り高き虎からは返ってこなかった。 虎さんは何も語らず、わたしたちを他のイーグル・パンサーのみんなの元に案内してくれた。 みんな、全身の傷や凍傷で気を失っていた。特にエゼさんの怪我はひどかった。 この虎さんが案内してくれなかったら、このまま命を落としていたかもしれない。 「……良き友だな。終生大切にするが良い」 わたしたちがみんなの救助をしている間に、虎はくるりと向きを変え、再び木々の間に姿を……消そうとした。 ―――やだ。せっかくあなたみたいな、立派な立派な獣に会えたんだから。 もっともっと、お話がしたい。春のお昼寝とか、一緒にしたい。 「待って!」 また、言葉がひとりでに出た。 「あなたと、また会ったら――― きっと、今度は本当の殺し合いになる。 そんなの…… いやだ。 あなたは、わたしの大事な仲間、ほめてくれた。きっと、気は合うと思う。 だから…… あなたも、いっしょの仲間に、なろうよ。 冒険や戦いだけじゃなくって。お話ししたり、遊んだり、いっしょにおいしいもの食べたり―――」 もう、自分でも何を言っているかあまりよくわかっていなかった。 「悪いが、私には……」 白い虎が口を開きかけた時――― エニシダさんが抱え上げたエゼさんの懐から、ふわふわの雪のような毛並みの、まだ猫ほどの大きさの子虎が駆け出した。 小さい身体で親に駆け寄った子虎は……かじりつくように、親の足元にしがみついた。 「ボクハ、コノヒトタチト、イッショ、イイ……」 そういえば、戦いのときの、白い虎の言葉………… わたしの中で、全てが、つながった。 エゼさんは、この子をかばうように戦って、こんな傷を…… そして、誇り高い虎さんは、わたしたちに、その恩を返しに――― 意識を失っているはずのエゼさんの顔が、かすかに笑ったように見えた。 守るべき子供にすがりつかれ、気高き白い虎は、山に帰る理由を失った。 こうして、わたしは……そしてトライアド・チェインは、新しい「友達」を迎えることになった。