探索4日目そろそろ食料が心許なくなってきた。 補給が不確実なこの遺跡において、食糧不足は如何ともし難い不安をかき立てられる。 が、しかし、懸念事項はなるべく外には出さない。表情にも出さない。そう努めている。 負の感情は伝染するからだ。 ましてや当分隊のメンバーは双方年下である。 片やハーフエルフ、片や年の割に落ち着いた魔術師と言えど、何が起こるのか分か らないのが冒険者や傭兵稼業なのだ。用心に越したことはない。 常に冷静であれと、行く先々で身を以て学んできた。 心の均衡が乱れた者が眼前で散っていったのは、決して少ない事ではない。 故に私は今日も明日も、おそらくは明後日も心の均衡を保ち続けるのだ。 それが女性として非魅力的に見えたとしても、否、見えることが多くても。 ―――父上、母上。申し訳ありません。内孫は諦めてくださいませ。 閑話休題。 ようやく迷子になっていたエニシダ氏と連絡が付き、ホッと胸をなで下ろした。 一段落すればこみ上げてくるのは、少しの苛立ちである。 自分では冷静でいたハズなのだが、うっかり長くなってしまった説教により、 流石の髭の偉丈夫もすっかり凹んでしまっていた。言い過ぎてしまったようだ。 どうにも多人数兄弟の長女という立場からか、くどくど説教する癖が抜けない。 後で謝っておこうと思う。流石に反省。 ……ただ、しょげていた氏の口髭が、説教が進むにつれへりょりと、水をやっていない 葉のように垂れ下がっていたのには、大きく興味を持った。 猛烈に触りたくなったが、相手の年齢的に洒落になる行為ではない。 平常心、平常心…… 【追記】 ビヴァーグ地の周囲を哨戒していると、稀に奇怪な森へと迷い込むことがある。 それは幼いころからの現象故に、せいぜい「またか」程度のものである。 しかし先日訪れたときには、実に嫌な…… まるで高熱のときに見る悪夢のような 現象に遭遇した。 それ自体には実害がなかったものの、以来軽い頭痛がひっきりなしに続いている。 と、ここまで書いていたら、悪化した気がしてきた。 頭が痛い―――。