探索14日目
さらにただしく刃を合わせ
霹靂の青火をくだし
四方の夜の鬼神をまねき
樹液もふるふこの夜さひとよ
赤ひたたれを地にひるがへし
雹雲と風とをまつれ
探索十四日目。
我々 Triad Chain は三隊同時に夜明けと共に、かの獣使いに挑むことになった。
正直言うと、獣使い自体に対しての感慨はそれほど抱いていない。如何様な出自の者か、複雑な事情があるのか、遺跡に招待した者の意図との関わりはあるのか。
そんなことはどうでもよかった。確かなのは、我々の障害となるべき存在であること。ただそれだけ。
しかし、それだけで充分だ。
夜風とどろきひのきはみだれ
月は射そそぐ銀の矢並
打つも果てるも火花のいのち
太刀の軋りの消えぬひま
現在の時刻は夜明け近く。
あと小一時間もすれば皆起きてくるだろう。中にはこんな時にもなかなか起きないような図太い輩もいるだろうが、その時は茶目っ気のある面々の餌食になる。
かく言う私はあえてあまり眠っていない。少しばかり寝不足の方が、かえって五感が冴えるような気がするからだ。
無論体力的なものが多少犠牲になりはするが、元より長期戦にするつもりはカケラもない。
焚き火の前に座り、その焔を見つめ―――猛る炎を宿し、静かな蒼い炎へ変える。そんなイメージを焼き付ける。
火の反対側にはエニシダさんが座っている。が、言葉は交わしてはいない。
氏も思うところがあるのか単に眠れないのかは分からないが、会話をする時ではないだろう。互いにそれは分かっている。
周りには眠っている面々がいる。
緊張で眠れないのか、しきりにエゼ君は寝返りを繰り返していたし、対照的にアーヴィンさんは呑気にいびきまでかいている。
少し離れたところではアルテイシアさんが座したまま背筋を伸ばし、微動だにせず瞳を閉じていた。最初は驚いたが、あれが彼女の睡眠……というか休んでいる状態なのだ。
アルクさんとナミサ君は、いつも通りペースを崩さない。それぞれ装備と荷物をきっちりと纏め(メガネは踏まれないようにケースに入れてしまい)、小さな寝息を立て始めてから大分経っている。
歩行雑草も寝息を立てるのを知ったときには驚いたものだ。
セレナさんはサフィさんに付き添うような形で眠っていた。端から見ると仲の良い姉妹に見えて、どことなく微笑ましい。
サフィさんも最初は寝付けなかったようだが、今の睡眠深度は深いようだ。
脇には巨大な蟋蟀が番犬よろしく座っていた。
太刀は稲妻 萱穂のさやぎ
獅子の星座に散る火の雨の
消えてあとない天のがはら
打つも果てるもひとつのいのち
こんな時なのに焚き火を見ていたら、つい昔聞いた唄を口ずさんでしまっていた。
ただし誰かに聞かれたら猛烈に恥ずかしいので、焚き火が爆ぜる音に紛れてしまうようなごく小声で、だが。
一人一人、生まれも育ちも種族も、もちろん島に来た目的も違うだろう。使命を抱えた者や何となく挑んでいる者も、仲間と仲良くなりたいと思っている者も、仲良しごっこをしに来たわけではないという者も居るだろう。
家族がありながら、どこか疎外感が拭えぬまま独りでいることが多かった、私のような者もいるのではないだろうか。
しかしこの一時期だけは、強い鎖でありたいと思う。
個が結ばれてひとつになった、一本の不可視の鎖に。
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