探索11日目
サフィさんが発見していた紅い翼の獣が、ようやく視認できるような距離に近づいた。
噂は聞いている、何人ものパーティが屠られたという異形どもだ。しかし我々には避けて通るという選択肢はない。
協議の末、少しずつ進軍しつつも、基本的にここ近辺の砂地でビヴァーグをしつつ修練を重ね、暫し後に挑むということと相成った。
移動づくめでくたくただったので、少しだけ助かる。脇には丁度水場も有り、各メンバーの健康や衛生を保つのにも事欠かないだろう。
それにつけても、サフィさんの視力は凄まじい。正直自分よりも視力に優れる者はそうそう居ないと思っていたのだが、彼女のそれは想像の斜め上を行っていた。確か数日も前に視認していたような気がするが……。
夜間は後退で見張りに付くのが、Triad Chain の暗黙の了解となっていた。基本的には火の周囲に集まって睡眠を取る。それが獣から身を守る方法として、最も確実で安全なのだ。
見張りは私の番になり、ついでなので武器製作についてのメモを綴っていたところ……どこから現れたのか、全身銀色の狼が目の前におり、私をその不思議な金色の瞳で睥睨していた。
火を恐れない、どこか威圧感のある高貴な銀狼が。
メンバーを起こそうと思ったが、不思議なことにその獣からは敵意は感じられなかった( 一瞬そのふさふさの毛を撫でくり回したい衝動に駆られたがさておき )。誇り高いその眼差しに、すっかり私は奇妙な気分になっていた。
だが、野生の狼に不釣り合いなペンダントが首からかかっていた。
興味を刺激され、何の気無しにそれを取って眺めたところ(余談だが、そこまでしても逃げたりしなかった。やはり野生の狼とどこか違うようだ)、それには文字が記してあった。
―――私の記憶を著しく刺激する名前が。
問おうとしたその時、狼は身を翻し、夜の闇に消えていった。
何故。
何故あの狼があの名前を彫ったものを持っている。
私が分かるのだろうか。その名前と何の関わりもない、今の生を受けたこの私を。
彫られていた文字は『Dear.Alma』。
アルマ。
私が一度死ぬ前の名前。
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