探索24日目
目の前にあるなにかひとつの壁をこえるたび、
ひとつの段階を進むたび、
わたしのなかで芽吹くように喜びが生まれる。
この喜びを知りたくてそれが好きで、わたしは、
本を読み、魔術を覚え、ものごとを見、聞き、感じ、
そして考え、
書いてきた。
それはきっと、
生まれえなかったものや、なかったもの、
ないことになっていたものと出会える喜びであり、
くさりを断ち切って、どこまでもひろがっていこうとする、
横溢の快感だ。
失われゆくものやわすられるものがこの世にはたくさんあって、
それはわたしのうちがわにおいても例外ではないし、社会的なところにおいても、そうだ。
禁魔術と呼ばれるこの力も、
きっとわたしを待っていた――いつか出会うわたしのことを、
禁じられた昨日をこえて、いつかこの世にふたたび空をあおぐことを、思っていた。
なぜこの力が禁じられなければならなかったのか、
少しずつ力の研究をすすめても、よく、わからない。
それほどに危険なものが、あるいはこのさきにあるのだろうか?
それでも禁じること、ふうじること、おしこめること、
そうして管理することは、
わたしは好きではない。
くらしていた町の、塀をでたむこうには、いちめんをばらにかこまれたぶどう畑があって、
幾本ものぶどうの木があって……けれどそのなかに、
ふしぎなくらいいい土に、枝をいっぽんだけ中空にのばした、
ふしぎなぶどうの木があった。
――あれは せんてい といってね
いいワインをつくるために
ああしてえだをきってしまうんだ
そんな話を聞いた。
――かたわになったぶどうだけれど
みをつくろうとするひっしなちからは
ひとつのえだにそそがれて
いいぶどうをつくるんだよ
生まれることを断たれた枝がある。
なかったことにされてしまった枝がある。
わすられたなかにきっと、まだだれもしることのなかった、
けれど泣きたいほどにだれかにしられたいとおもっている、
枝が、花が、あるのだ――
わたしはそれを知りたい。
この島にみつからなかった宝玉を、みいだしたい。
みつけだす、ひろう、すくいあげる……
これがきっと、わたしのなすべきことだ。
わたしは知りたい。
生は飛び石。とどまれば沈む。
けれど空を駆ける一瞬前、たしかに蹴った水面のことと、
ついに蹴らずに終わった幾千里もの水面のことを、
わたしは思う。
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