探索14日目


ぱちぱちとかすかな音を立てて、いろいろにかたちを変える炎をみていると、 わたしのまえで時間がぐるぐるとまわりだして、おなじところをずっと行き来しているような、 このまま明日がこないような、 えいえんにわたしが炎をみつめていて、みんなもそのまわりにいて、 とざされた時間のなかで、炎だけがぱちぱちと鳴りながら千変していきつづけるような、 そんなかんかくの迷い道に、はいりこみそうになる。 炎をみつめつづけていると、こころが炎にとらわれて、 やがて口からとろりとたましいが抜けだして、 もえる火のいきおいをごうと強くし、そのまま天にのぼって二度とかえれなくなるのだという。 炎はわたしたちのこころをうばい、目をうばい、逃がさずにおく。 ので、 わたしは、すこしむりをして、かがり火から目をそらす。 明日はこなくてはいけないから。わたしたちはわたしたちの戦いをまっとうしなくてはいけないから。 みんなは……なかまたちはそれぞれに過ごしている。 武器をととのえたり。楽器のちょうしをととのえたり。軽く食事をしたりしている。 へんな獣のこないよう、あたりに、目をくばったりもしている。 いままで越えてきたいくつかのキャンプとは、やっぱりすこしようすがちがうのだと、思う。 たたかい。おおきなたたかい。 そのことばをまえにすると、わたしはやっぱり、身体がふるえるのを感じる。 その半分は、恐れ。そしてもう半分は、 きたい。 期待。に、きっと、あたるものだ。 なにか大切な大きなもののかかった戦いのなかで、 気もちを強くひとつところに置くとき、せかいの時間のながれをすべて知っているような、 時間がどちらへ、どういうふうに動くのかがなにもかもわかっているような、 そんな、全知のさっかくを感じることがある。 もちろん、さっかくはさっかくだから、わかったような気になっても、 なにができるわけでもないのだけれど、 それでもそのかんかくの底には、ある意味での、気もちよさがある。 そんな全知のさっかくへの、期待。 その期待だけで戦いを、むかえられるならきっとしあわせだったのだろうけれど、 わたしには、はんぶんの恐れもある。 恐れ。それは失うことへの恐れ、かなしみへの恐れ、 なかまのあるがゆえの、かれらをおもうがゆえの、恐れだ。 いくつもに思い浮かべるたくさんの未来に、いくつもの恐れの芽が、うかんでは、消える。 けれどその恐れの芽を、かぞえるうちにやがて、 この恐れがたいせつさの、好きなきもちのゆえのものであるなら、 この恐れもたいせつで、好きでいてあげなくてはいけないと、 すこしずつ思いはじめた。 トライアドチェイン。わたしはわたしたちが好き。 それであるなら恐れととともに、 わたしはわたしたちの一員として、 わたしたちをまもりたいとおもう。 わたしはひとりではない。 たとえば魔術の炎やわたしを守護する英霊の天恵が倒れるとしても、 それはわたしの倒れるときではない。 わたしの火は業火ではない。 けれどしずかにじっと、熱をたもちながら、 だれかとともにそっと燃える日を待つ、 熾き火ではきっとありうるのだと思う。 ぱちぱちとかすかな音を立てて、いろいろにかたちを変える炎をみていると、 わたしには時間がえいえんであるように思われて、 みんなとともにこのままいつまでも、 いつまでも変わらずにあしたを待てる気さえする。 ので、 わたしは、すこしむりをして、かがり火から目をそらす。 明日はこなくてはいけないから。 わたしたちのあるく道を、 まだもうすこし、とまらずに、あるきつづけていきたいから。

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